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飛行機が着陸姿勢に入るので眠い目をこすって何とか起きようとする。どうにか目が覚めているだけで頭も体もぜんぜん起きて来ない。真っ暗な窓の外にオレンジ色の街灯が夜光虫の群れのようにかたまってあちこちで光っている。これがドイツ、ベルリンの光だ。街のどの辺りなのかは全然見当も付かない。初めての国なのだから当然だ。しかしとにかく眠い。何も頭に入らない。座っていられる限り目をつむって背もたれに寄りかかる。 やがて着陸。危なげなく機は滑走路を滑り、滞りなく作業が進んでシートベルト着用のサインが消える。いくらでもゆっくりやってほしいところだったけれどこんな場合に限ってとても手際がいい。先進国ドイツなのだから当たり前だ。 手荷物を持ってゆっくりと歩く。フライトアテンダントが笑顔で見送ってくれる。 イミグレーションの係官が深夜なのに 「グーテンダーク」 と笑顔で迎えてくれる。作り笑いで何とか応える。すぐにスタンプを押してもらい、荷物をピックアップする。最後の検疫のところでテントを持っていたのを見て係のおっちゃんがトレッキングをするのかと聞いてくる。フェスティバルだとはなんとなく言いにくくて友達とキャンプだと言い訳する。 アライバルラウンジは見事に椅子が無い。仕方が無いので一軒だけ開いていたカフェに入って居座ることにする。宿が開くのは早くて11時。それまでの8時間ほどを何とかやり過ごさなければならない。大荷物の旅行者がゆっくりできる場所がベルリンにどれほどあるのか分からない。ひとまず明るくなるまでは粘ることにする。 ツーリストマップを見つけ、両替をして半分居眠りをしながら朝を待つ。コーヒーを飲んでも眠気はまったくなくならない。 朝の6時過ぎ、辺りは気が付くと明るくなり、早朝着の便の到着客もちらほら見えるようになってきた。サンドイッチがカウンターに準備され、朝食を食べる人がカフェに入り始めた。とりあえず二人ともサンドイッチをそれぞれ一個ずつ食べて列車が混む時間になる前に移動を開始する。 飛行場から400mのところにある駅に向かい、始発の列車に乗り込む。見ているとどうやら宿のあるショーンハウザーアリーまで一本で行けるようだ。疲れ切っていたので好都合だ。列車は渋くて味のある見た目に似合わず中は新しくて快適だ。この辺りの美的感覚はとてもヨーロッパ的で洗練されている。アジアには無い何かを感じる。 列車が走り始め、徐々に乗客が増える。いわゆるドイツ人顔の人がやはり多い。国籍豊かというイメージではない。30分ほどツーリストマップとにらめっこしながら何とか位置関係を探る。S9の列車はやはり間違いなく宿のある駅に向かっている。やれやれだ。路線図と地図の表示が違っていてちょっとひやひやものではあったが、結果オーライだ。 ショーンハウザーアリーに到着したのが7時半程度。とりあえずベンチに座って一休みをする。眠気と疲れで荷物がいつもよりずっと重く感じる。すぐには動けないし、動いたところで部屋はまだ開いていない。ゆっくりしていけない理由は何もないのだ。 1時間ほどそこにいてから、重い腰を上げて予約したときの案内に従って宿を探す。交差点ごとに通りの名前が書いてあるので問題は無い。宿の近くに大きな公園を見つけたのでまたそこのベンチで休む。もう、文字通りホームレスである。チェックイン時間までの期限付きとはいえ、初めての国でなんとも心もとない。いっそのことテントを張ってしまおうかと思ったほどだ。トイレもないので駅ビルまで戻るしかない。何も分からないとやはりとにかく不便だ。 11時に宿の管理をしている不動産会社が開いて部屋に案内してもらう。天井が高く、家具から細かい調度品までセンスがいい。アジアでは絶対にありえないクオリティだ。お金をかけただけではこうした内装には到達できない。ヨーロッパが長い時間をかけて育んだ美的感覚が空気のように生きている部屋だと感じた。 早速シャワーを浴びて寝ることにする。シャワーは一瞬で熱いお湯がたっぷり出る。違いをまざまざと感じさせられる。二人で50ユーロもしない格安の部屋でこれなのだ。眠れるだけじっくり眠る。 起きてから近くのスーパーに買い物に行く。キッチンが充実していたので料理がしたくてたまらなくなったのだ。Reweという大型スーパーは本当に何でも揃っている。オーストラリアのウールワースを遥かに凌ぐ質と量だ。野菜も安く、チーズもパンも肉もいい加減なクオリティのものは置いていないし、それでいて安い。ドイツ人の友人からベルリンは安くて暮らしやすいと聞いたけれど、食に関しては間違いなくその通りだ。新鮮そうなトマト、レモン、チコリー、ハム、黒パン、オリーブオイルを買う。 帰ってサラダを作り、トーストした黒パンとハムと一緒に食べる。もう、どれもこれも絶品である。住みたい街の第一位にいきなりベルリンが躍り出た。食べ終わって片付けたらすぐに眠くなってそのまま眠る。
by djsinx
| 2010-07-23 05:46
| 旅の記録
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