2月2日の夜、21:00。この冬ぶっちぎりの寒波に舞い散る雪の元、木屋町のFAILY LABには大勢のクラブ経営者、関係者、アーティスト、クラブファンたちが詰めかけていた。数日前にTwitter経由で拡散、告知された「京都のクラブシーンを考えるつどい」がこのイベントスペースで開催されるのだ。
私が入った時は開始5分前程度だったけれど、前半分は既に埋まっていた。さすがに知らない人ばかりなので後ろの方に座っていたが、次々と人が入ってきては座る。横には報道陣も待機している。 京都市長候補の中村和雄氏が自身のBlogで「若者文化」を争点として挙げ、「時代遅れの風営法を変えていこう」と発言したことにより、この話題には関心が集まっている。京都市民ではないクラブシーンに関わる人々からの注目も高いと感じている。 前半はつどいの主催者側や京都のクラブの関係者たちからの現状報告や意見表明の時間だった。WORLD閉鎖のインパクトが大きかったけれど、やはり木屋町周辺を中心に、取り締まりや指導は厳しくなっているという。スペースのDJイベントとしての使用の自粛を求められたり、音楽を聴きながら飲んでいる時に肩が揺れているだけでアウトだったりと、かなり締め付けは激しい。 取り締まりが厳しい理由としては、ドラッグの問題、喧嘩の発生、住民苦情、暴力団との関係の疑惑などが紹介されていた。これは京都だけに限った話ではないが、これまでのそうした積み重ねの歴史があり、「非行の温床」になっているというレッテルが警察によってべったりと貼られているのが現状である。 これに対してクラブシーン側の主張の根幹にあるのは、「どうして踊るのが悪いんだ?」というシンプルにして根源的な疑問だ。コンビニも映画館もカラオケも居酒屋も朝まで営業しているところなんていくらでもある。なのになぜ「踊る」という行為がこんなにも制限されなければならないのだ、というところだ。 ダンスは人類に共通の本能であり文化であるはずで、日本にも阿波おどりやよさこい節を始め、数々のダンスの伝統が存在する。それに幼稚園や学校ではダンスをする時間があり、大学にもダンスサークルなんていくらでもある。それなのになぜ、「クラブで踊るということ」がそんなにいけないのか。 若い人々が集まる場所として、遊ぶ場所として、そしてそこでの出会いや遊びから生まれる文化の発信源として、自分たちの愛するクラブシーンを守りたい、という強烈なパッションを感じた。京都には独自の、非常に面白い音楽やアートのシーンがあって、それは日本のみならず世界に向けて発信することも十分にできるものだと個人的には思っている。当事者たちがそういった思いをこうした政治的と言える場に集まって熱く語る、というのは本当に貴重な機会だ。 そうした話の中で、「自助努力をすべきである」「街の声に耳を傾けねば」という意見が複数の発言者の中から出てきたが、これは非常に大切なことだ。警察が問題としているドラッグ、喧嘩、住民苦情など、クラブに関わる人間がどうにか変えていける部分というのは実は結構ある。経営者、従業員、アーティスト、ファン、誰でもだ。ドラッグや喧嘩をやらない、見たら止めるとういうのもひとつ。クラブの外で溜まって大声で騒いだり、ゴミを散らしたりはしない、させない。木屋町のクラブで組合を作るという案などはとてもよいと思う。全国に先駆けてどんどんやっていけばいい。 正直東京では、その辺りのクラブ関係者の自制は(少なくとも私がいた頃は)結構しっかりしているように思える。クラブ出てたむろってるとすぐに散ってくれと言われたり、人を威嚇するような服装の人は入場お断りとか。より人が多くて密集しているからかもしれないが、その辺りの厳しさもあって関西のような状況になっていないという面もあるのではないかと推測する。ただの警察の管轄が違えば方針も変わるからと言われればそうかもしれないが。 そして中村和雄弁護士が登場。中村氏は現在のクラブシーンには間接的にしか関わっていないが、ビートルズ来日後の雰囲気の中で青春時代を過ごしていたという。そこにはビートルズを真似する長髪の若者たちがいて、フォークがあり、ディスコが生まれていた。要するに、我々の大先輩なのだ。 当時長髪の若者は不良だと言われていたが、彼らの真似したがったビートルズは今や学校の教科書にすら載っている。時代が変われば文化も、それらへの評価も変わる。その時の大人の都合だけで文化自体を潰すようなことをしてはいけないと氏は語った。 当時から、円山公会堂などを使ってコンサートも行われていたけれど、10人、15人が入れるような小さな店があちこちにあり、そういうところから生まれて育ったアーティストが大きなところに出て行って日本中に羽ばたいていった。だからこそ、豪華な施設だけが鎮座しているような街にはしたくない、という。 クラブで問題が発生しているのであればそれを解決していけばいい。ドラッグや喧嘩があるならそれを止めればいいし、苦情には対応すればいい。そういうものがありがちだからといってクラブ自体を潰すようなことをするのはおかしい。それはどこかの区で犯罪が多かったから区まるごと立入禁止にするようなものだ、と。 そして我々、クラブに関わる人間にできることは、何と言っても「声を上げる」ことだという。多くの仲間を作り、賛同者を募り、そして社会に向けて発信していく。言ってもしょうがない、どうせ変わらないと思っていて放置しても状況は決して勝手に良くはならない。難しくても、道のりが長くても、諦めたらもちろんそれで終わりだ。 シーンの中だけで閉じず、外に対しても広くアピールしながら協力者、賛同者を増やしていく必要がある。その過程で国会議員も仲間にし、国会での法律の改正を目指す。これは市長が勝手に変えられる話ではないのだ。その中ではとにかく人が必要になる。シーンの内外の多くの人々によりクラブシーンを理解してもらい、法改正への理解を深め、ムーブメントを起こさなければならない。それが一定以上の数になってくれば国会議員も無視はできない。彼らは有権者なのだ。 その後の質疑応答は会場を借りている22:30ギリギリまで続いた。闊達な議論がかわされ、どうしても一言言いたい参加者からの熱いメッセージもあった。その中で印象的だったのは、「クラブシーンを守ってくださいと他人に頼むんじゃない、自分たちが自分たちのシーンを守り、育てなければいけないんだ」という言葉だ。他力本願で誰かが解決してくれるようお願いして待つだけでいいわけがない。それでは口を開けてテレビをずっと眺めているのと大して変わらない。 自分たちがシーンを作っているんだと自覚して行動すること。ただ、誰かがやっているイベントやらパーティやらに遊びに行くだけではなく、ひとりの参加者としてそのシーンにいること。やっていることは一見同じでも全然違うことだ。180度真逆と言ってもいい。 そして、法改正へのアクションを起こして動くのと同時に、できること、やらなければいけないことは、現在クラブで起こっているとされている諸問題のうち、自分たちで改善、抑制できるところはしっかりとやることだ。ドラッグ持ち込まない、喧嘩は止めるとか、クラブの外でたむろって騒がない、ゴミや吸殻をポイ捨てしない、そういうところからひとつずつ意識を高めて行動を変えていくべきだと私は考える。 もちろんクラブはお酒も入っていい音楽の流れる場所だ。多少ハメを外したって構わないと思う。飲み過ぎでぶっ潰れたっていい。ただ、法を破ったり、人を傷つけたり、周りの住民の生活をかき乱したりするようなことはしてはならない。それはクラブであろうとクラブ以外の場所であろうと変わらない基本的な話だ。クラブでだけ許されるはずもない。そういう大外の超えてはならないラインをちゃんと意識することは絶対必要だ。 それができていなければ警察がやってきてがんじがらめの檻に入れようとする。でもそこを自分たちで意識して則とすればいい。そうやって自助努力を重ね、自治していくという背骨を持たなければ、いつかまた同じような理由で圧力がかかることになる。 昔と同じ状態に戻せるのか、戻せばそれでいいのかといえば、それはまた違う。時代は変わり、文化も変わっていく。我々は未来に向けて新しい形を作っていかなければならないと思っている。それこそが「クラブカルチャーの発展」と呼べるものだと私は信じている。 なお、会の主催者側と近しい人々の間で近々Facebookかなにかを使って風営法改正のページを作り、情報を共有していく場を設けるとの話があった。これはぜひやっていただきたい。この京都のシーンからなら本当に新しい動きを起こせると私は感じている。 最後に、投票日が目前に迫っている。京都市内のクラブや音楽を愛する人々に、できるだけ今何が起こっているかを知り、投票所に足を運んでいただきたいと思う。もしこの記事を読んで役に立ったと思ったら、ご自分の使っているSNSを使って京都市民の友人たちとの情報の共有、拡散をお願いできれば幸いです。
by djsinX
| 2012-02-03 14:22
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