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終わりなき日常への回帰を目指すお茶の間神話の信者たち

震災から1年半。露呈した矛盾を解決して新しい未来へと進もうという努力がなされると同時に、終わりなき日常という古い夢に逃げ込みたくて使い古した布団に頭を突っ込もうとする動きも強くなっている。もう二度と見れない夢、しかもろくでもない夢だったにも関わらずに、だ。

その夢が目指すのは永遠の経済発展。終わりなき右肩上がりの世界。報われる努力、輝かしい未来。高度経済成長期には自明だと勘違いされた見果てぬ夢だ。その夢があまりにも美しく甘美だったので、誰もが底から離れることができないのだ。それはある意味神話と化している。その神話は長谷川町子が形にし、さくらももこが受け継いだ。暖かな家庭の団欒、繰り返されるサラリーマンと主婦の日常、社会に心配事はなく、永遠にお茶の間を中心とした無時間的な時間が続いてゆく。経済危機も近隣諸国との紛争もない、基地問題も原発問題も公害病問題もない。

全ての社会はお茶の間のテレビの中で無害なお話に変えられて伝えられる。それは翌日の無駄話の話題として消費され、思い出されることはない。今日と同じ明日が繰り返され、破綻は起こらない。これが神話でなくてなんだろうか?そう、これは神さえも必要としない現代の神話なのだ。神の代わりに据えられているのは不可視化された経済だ。基調低音として、安定し、成長を続け、破綻しない経済というものがこの終わりなき日常というあり得ない永久機関の神話を支えている。信者は金や経済を信奉すらしない。ただ当たり前の、空気と同じようなものとして消費しているのだ。

3.11で既に崩れていたこの神話が実はボロボロのハリボテだったことが白日の下に示された。終わりなき日常はあっけなく崩れ去った。そこからの経緯は改めて語るまでもない。目を開けていれば見えることだ。ただ、その光景はあまりにも辛く、そして先が見えなかった。

テレビが目の前の現実としての3.11を映さなくなった頃から古い夢への回帰の願望は少しだけ満たされることになった。テレビは昔から変わらずお茶の間に向かって神話を流し続けていたからだ。お茶の間が崩壊し、消え失せた後もお茶の間の幻に向かってお茶の間向けの無害な話を流し続けていた。古い夢を欲した視聴者たちも、自らが既にお茶の間におらず、お茶の間を持てないにも関わらず、その無害な話を好み、滅びた神話の共犯者として加担し続け、消費し続けている。変わらない日常を求めるあまり、供給された幻を貪り食い続けるジャンキーじみた狂信者になっている。

だから「脱原発だと経済が!」とか「増税しないと経済が!」とか「TPPに乗り遅れると経済が!」という脅し文句はこうした人々には非常に有効なのだ。彼らは自らの神と神話を失うぞと脅されている哀れな信者なのだから。既にそれらは失われて久しいというのにも関わらず、だ。

ではどうしたらいいのか?新しい神話をこれから作ることは難しい。金や経済以上の価値をすぐに万人が認めるようなものは一朝一夕には作り得ない。世界宗教と呼ばれる宗教がどれだけの年月と戦いの中で大きくなっていったのかを見ればそれは一目瞭然だ。

ならばどうするのが次善なのか?最早その金と経済の神話の枠内で新しい方向性をリードしていくしかないだろう。原発も増税もTPPも、その枠内で話をする。こっちのほうが儲かる、これをやると損をする。それを資本が儲かるかどうかではなく国民が儲かるかどうかで計算する。そしてそれぞれが考えるようにする。他に信じる神がない以上、リスクとリターンの話でいい。金勘定の話で構わない。

ただ、そこで「誰が豊かになるのか」「払うべきリスクと対価は何なのか」を考えないといけない。一元的なテレビからの情報ではない、多元的な情報の提供が必要。幾つもの意見の中から自分で考えて選ぶという力を養成する。究極は「自ら考える」ということにたどり着くし、そうなればもはや彼らはただの狂信者ではない。

だから反論に耐えうる論理を持ち、声を大にして主張し、実際に行動で示すというのは非常に有効な手段だ。これで情報の一元化を撹乱し、多元性をもたらすことができる。そして大切なのはそういう動きを継続させること。終わりなき日常を求め、金と経済の信者たちは消費を生活の基調としている。情報も刺激も消費してしまう。

口当たりよく消費されない核となるものを仕込み、消費し尽くせないくらい続ける。これは消費できない何か別のものであると分からせることだ。諸行無常にして万物が流転するこの世界では人間がそれを行うしかない。飽きることなく、潰れることなく、人間がやっていくしかない。そうした変わらずに続くことが逆説的には変わらなかった神話を変える原動力となるのだ。水滴が岩を穿つように。
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by djsinX | 2012-09-11 10:34 | 震災関連