風評と実害のラインなき境界

福島県の農産物への風評被害が叫ばれて久しい。また、それと同時に子供への年間20mSh/hの被爆限度の撤回を求めるといった実害に対する動き活発になってきている。それらの原因にはもちろん福島第一原発の事故があり、そこから漏れた放射能によってこれらの問題は引き起こされている。

今、この原発事故に起因する放射能問題の大きな難点の一つは、それらが「風評」による被害なのか、「実害」であるのかの判断が決定できず、様々な人の意見の間でぶれ続けていることにあるのではないかと考える。

例えば農作物について、政府の発表した基準値を下回っていれば安全であると考えて売るのにそれが売れないのは「風評被害」なのだろうか?それは政府が発表した基準を妥当なものであると認めた上での議論だ。逆に、子供の被爆限度の問題は、政府が示した年間20mSh/hの基準は有り得ないとして「実害」があるからと撤回を求めている。

この二つの立場は明らかに違うし、もし同じ人が同時にこれらを主張するのであれば政府の見解に対してダブルスタンダードを適応していることになる。ではただちにそう主張する人の論理が破綻しているのかといえば、話はそこまで単純でもないと感じている。それは政府としても安定して、確固たる基準なり方針を継続的に固持し続けているとも言えない状況であるということがまず一点。そして、福島原発の状況が刻一刻と変化している、もしくはその状況が公にされることで、常に一つの方針を固辞することが適当であると言えないことがもう一点挙げられる。

ここまできて文章を打つ手が止まる。正直な話、論理的ではない状況を論理的に説明することなどできはしない。隠蔽であるのか、本当に分からないのかは別問題として、原発の現状について確定的なことが何も言えていないという状況があり、それに立脚して避難なり復興なりのプランが立てられている。それはどう好意的に言っても砂上の楼閣であり、確立された結論には結びつかない。その上に、そこには政治的な判断や意図も加えられるだろう。もしかしたら利権と呼ばれるものも影響してくるのかもしれない。それがどれくらいの割合を占めるのかは分からない。

ただし、そういった複合物から出来上がるものは、輪郭のぼやけた巨大なグレーゾーンだ。それは限りない白から限りない黒まで続く広大なグラデーションとなって福島の上に覆いかぶさっている。数々の放射性物質と同じように。だが、それよりも遥かに広く、どんなマスクをしていようと身体の中に執拗に入り込んでくる。虚と実は入り混じり、判別することも適わなくなってくる。

ここで政府が明確なライン引きをし、責任を持って強制的な指示を出さない限り、被災者はグレーゾーンの中に置き去りにされる。様々な情報が飛び交い、「船頭多くして船山に登る」の例えにあるように、身動きがとれずにスタックする。そして、今起こっているのはそれが徐々に徐々に、日常化していくということだ。

それは危険なことだ。恐れるべきを恐れず、恐れるべきでないものを恐れてしまう。さらに、大きな問題なのは、それが実際に恐れるべきものなのか、そうでないのかが目には見えないということだ。恐らくは何年、何十年後にしか分からないということだ。そういう、見えないものと私達は今戦っている。

可能な限り最悪を想定して迅速に対処すること。それが危険に対する最善の態度ではある。だが、今回のこと場合に関して言えば、何が最悪なのかすら分かっていないのだろう。そして、考え得る最悪を想定していけば、福島市、郡山市までが避難を余儀なくされるのかもしれず、数十万人の避難民を出し、東北への物流の背骨を失うことは政府としては選択できないのかもしれない。

だとしたら何ができるのだろうか?明確な答えはない。ひたすら逃げるという個人的な選択肢もあり得るのだろう。気にしないのも一つの手だろう。どうした道を選ぶにせよ、そこには自ら考えて判断する、という行為が何より大切になってくる。今までそういう教育を受けてこなかった日本人の多くにとっては非常に困難な事態なのかもしれないが。




--以下引用--

チェルノブイリ級の土壌汚染も 原子力委に専門家報告

 国の原子力委員会は24日、定例会議を開き、福島第1原発事故の対応を討議した。専門家として招かれた原子力発電環境整備機構フェローの河田東海夫氏(原子力工学)は放射性物質による土壌汚染の濃度が一部地域でチェルノブイリ事故に匹敵するとの分析結果を示し、避難住民の帰還には「大規模な土壌修復計画が不可欠だ」と指摘した。河田氏は、文部科学省の空間放射線量調査などから原発周辺の土壌に含まれるセシウムの量を推計。原発の北西を中心に、チェルノブイリ事故で強制移住の基準となった1平方メートル当たり148万ベクレルを超える地域が約600平方キロにわたって広がり、同事故で一時移住の基準となった同55万5千〜148万ベクレルの地域も約700平方キロに上ると説明した。
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by djsinx | 2011-05-24 23:05 | 震災関連
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